紀々が出会ったプロフェッショナルを、紀々の視点でご紹介する…「社外報!
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◆ … ・ file.22 :取材日 2013年7月17日 ・ … ◆

石垣 晃(いしがき・あきら)

※ studio紀々のグランドピアノ調律中のひとコマ。
ハンマーのフェルトをほぐしているところ。
「簡単そうに見えるでしょ? 実は、すごく難しいんですよ」とのこと。

職業 : コンサートテクニシャン
この道 : 22年

私がまだ学生だった頃から
お世話になっているプロフェッショナル。
本番前の緊張の現場に
何度も立ち合って下さっている、心強い応援団です。

「ピアノのことなら、何でも聞いて下さい!」

いつもそうおっしゃって下さる石垣さんに、
お話うかがわせて頂きました。
studio紀々のグランドピアノ「唯さん」の
調律現場でのインタビュー♪

何度もピアノを調律して頂いていますが、実は…
本番の日は、私自身も準備があるため
じっくり調律を見せて頂いたことはありません。
まるで、ひとつの舞台を見せてもらうような
ワクワク・ドキドキの中、幕明けです♪


※ まずは、調律のための準備から。
鍵盤の向こう側にズラリと並んだメカニック部分は、普段は隠れているところです。

◇ 紀々
調律師を目指したきっかけは?

石垣さん
それはですねぇ、たまたまですよ(笑)。
ピアノは好きでした。

◇ 紀々
いつもは、本番前の楽屋から
石垣さんの調律の時の音を聞いたり背中を目にしていることが
ほとんどだったので、今日はワクワクなんです!
ここにいてお話していても、仕事の邪魔にならないですか?

石垣さん
大丈夫ですよ、どうぞ。
道具も、写真撮りますか?

◇ 紀々
これまでの「社外報!」、読んで下さったていたのですね!
どうもありがとうございます。
それにしても…色々入っていますね~。


※ 石垣さんのお仕事道具…ズラリ。

石垣さん
普通の調律だけでなく、コンサート本番にも立ち合うプロは
「コンサートテクニシャン」と呼ばれます。
コンサートでは、何が起こるかわからない。
本番中に何が起こっても対応できるようにしなければいけません。
ある程度の修理もできるように準備しています。
万一、ピアノ線が切れた時のために…
予備も持っています。

◇ 紀々
調律には、色んな工程があるのですか?

石垣さん
主に、3つのことをします。
まずは「メカニックの調整」。
88の鍵盤を、可能な限り同じように調整します。
ピアニストは、バラバラのタッチはすぐにわかりますから。
2つ目は、音程を合わせる「調律」。

◇ 紀々
私がいつも楽屋から耳にしている音は、
その「調律」の部分なんですね。

石垣さん
きっと、そうですね。
3つ目は、音色を揃える・音をつくる…「整音」。
英語では「Voicing」といいます。
音には、やわらかい・かたいなど「好み」がありますが
基本としているのは、
「このピアノの一番良い状態」にすることです。
どんなに頑張っても、
例えば、このピアノはスタインウェイにはならない。
別のピアノにはならないんです。
「このピアノの“良いところ”」を引き出すことが、
私の仕事だと思っています。
当たり前のこと・基本をしっかりすること。
そうすれば、いい音になるはずだと考えています。

◇ 紀々
それは、私も同じです。
その人の“いいところ”を見つけて、
イキイキ発揮するためのサポート…思いがけない共通点発見!
でも、どうやってそれを見つけるのですか?

石垣さん
ピアノに触ったら「何をやるべきか」わかります。
「素材の命ずるままに」…です。
このピアノの一番いいところが出せれば、
どのピアニストでも弾いてくれるはず、と思っています。

◇ 紀々
特に本番前の調律の現場では、緊張感も高いのではと思うのですが…
調律の時には、集中力・緊張感はどのような感じなのでしょうか?

石垣さん
確かに、ピアニストは気が張っていますね。
ピアノの状態によっても違いますが、
調律にはだいたい60分くらいは時間をかけています。
あまり張りつめるのは、良くないんです。
調律においては、気が張りすぎると耳がダメになってしまいます。
ひと呼吸おくことでわかることもあるので、
耳を休める時間も必要。
没頭しすぎると、かえって見えなくなることもあるから。
調律の時も、意外と普通の感覚ですよ。(笑)

◇ 紀々
調律師さんは、やっぱり“耳が良い”のでしょうか?

石垣さん
音を聞き分けることは、大事ではあります。
でも、もっと大事なことがあるんです。
それは「その音のところで、止める」技術。
こうやって、
チューニングハンマーで、チューニングピンを回して…
音を聞きながら、一番良いところで止めます。



このピアノの線1本は、
グランドピアノだと約80㎏の力で引っ張っているんですよ。



だから、ちゃんとピンが止まっていないと
一瞬は合っても、フォルテで弾くとすぐにズレてしまいます。
だから「止める技術」が一番難しくて、一番大事。

◇ 紀々
なるほど…。
このピンは、いくつあるのですか?

石垣さん
だいたい230本です。

◇ 紀々
だから…張りつめていたら持たないんですね!

石垣さん
あと、ひとつに手間取って時間がかかってしまうと、
本番に間に合わなくなってしまう…
そこも、コンサートテクニシャンに求められているものです。

◇ 紀々
耳が良くても、ピアニストでは調律できないわけですね!(笑)

石垣さん
だって、ピアニストが演奏に費やしてきた分だけ、
私たちコンサートテクニシャンは、調律に時間をかけてきていますから。

◇ 紀々
この仕事の一番大変なところは?

石垣さん
「これでいい」というのがないところでしょうか。
点数がつけられるわけでもないし…
アーティスティックな世界には尺度がありません。
なので、時にわからなくなることもあります。

◇ 紀々
うれしい時は?

石垣さん
ピアニストが良い演奏をしてくれて
「この楽器、こんなに良い音が出たんだ!」という場面に出会えた時。
ピアニストが、私がやった以上の「ピアノの良さを引き出せた」時でしょうか。
それは、私もきっちり仕事ができていたからでもあるので…
うれしいです。
その嬉しさがあるのは、
後味の悪い現場をいくつも経験してきたこともあるかも。

◇ 紀々
調律師1年目の時と、今との違いとして…感じることはありますか?

石垣さん
この仕事が合っている…「好きだなぁ」と思うところでしょうか。
実は、調律師の学校を出ても続かない人は結構いるんです。
好きでないと嫌になっちゃうと思います。
だから「好き」であることは、大事です。

せっかくなので、ちょっとやってみませんか?

(私も「良い音のところで、ピンを止める」…に挑戦させてもらいました)


※ 写真は、大苦戦中の私。
石垣さんが苦笑いしながら撮って下さいました…。

あはは。
これでは、1週間かかっても仕上がりませんね~。

◇ 紀々
仕事柄、音を聴くことにはちょっと自信あったのですが…
これは、とても無理!
私は、調律師には向かないということがわかっちゃいました。(笑)
これからも、石垣さん
紀々のピアノをよろしくお願いします!

・ ・ ・

紀々の哲楽メモ

プロを支えて下さる、プロフェッショナル。

私にとって、石垣さんはそんな心強いお一人です。

県外から演奏会のために沖縄にいらしたピアニストにも、
調律についてご相談があれば石垣さんをご紹介しています。
そして、必ず喜ばれ
次回の時にもご指名がある…それは、私にとっても
嬉しいつながりです。

F1レーサーが思い切りスピードを出せるのは、
ピットでプロが全力で支えてくれるから。
その安心感・信頼感は、きっと大きいと思います。

舞台に立っているのはピアニスト一人でも、
ピアニストが安心して思い切り演奏できるのは、
しっかりとピアノの調子が整っているから。
弾きながら、石垣さんの調律している背中が
頭に浮かぶこともありました。
一人じゃないと思える瞬間でもあります。

どんな質問・相談にも、
石垣さんはわかりやすく、率直に答えて下さり
私は、本当にたくさんのことを教えて頂きました。
ピアノについての先生です。

こんなに長いお付き合いなのに、
今回、初めてわかったことがありました。
それは…石垣さんのカメラ見知り!(笑)
お話下さる時には、まっすぐこちらを見て
笑顔なのに、カメラを向けるとどうにも…。

「もういいじゃないですか」と苦笑い。


これまでの「社外報!」では、
1枚目は正面からの表情をご紹介していたのですが、
今回のインタビューでひとつ変えてみることにしました。

それは、
「仕事をしている姿がカッコいい!」と感じたからです。
正面に限定する必要はない、と。
なので、これからも
正面に限らず、プロフェッショナルのカッコいい姿を
撮らせて頂きたいと思います。

石垣さん、お仕事中に…お邪魔しました。
そして、どうもありがとうございました!



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